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この映画は地方交響楽団の第1号である、
群馬交響楽団の前身である、高崎市民
フィルハーモニーの創世記を描いた作
品で、1955年独立映画から配給された。

キャストは岸恵子/岡田英次/小林圭樹/
加東大介/三井弘次/伊沢一郎/原保美/
十朱久雄/東野英二郎/清村耕二/多々良
純/中村是好/千石規子/草笛光子/沢村
貞子に、実名で山田耕筰/室井麻耶子。
脚本:水木洋子、監督:今井正、音楽:団
伊玖磨
終戦直後の昭和22年春、群馬県高崎駅
から人々が鈴なりに乗った蒸気機関車で、
高崎市民フィルハーモニーの楽団員たち
が、山間部の小中学校などへ移動音楽
教室のため出かけていく。

しかし、終戦直後とあって人々はクラシッ
クを鑑賞する感性は持ち合わせていず、
退屈のあまりいたずらや喧嘩を始める始
末。私財をなげうって市民に音楽を拡げよ
うとする井田マネージャは、ただただ困惑
するばかりであった。
彼らの練習場は古びたカフェの2階。楽
団員の大半は産婦人科医や職人のアマ
チュアと軍楽隊上がりの人々であった。

そんなカフェに人待ち顔の一人の男が居
た。そこへマネージャの井田が練習場へ
駆け上がって行くが、男はメモを残して立
ち去る。

メモには「失礼して返ります」とあり、東京
の一流楽団に居た速水の耳には、階上
の練習は耐えがたい演奏だった。
マネージャの井田は駅に走り、動き出した
列車から急用を理由に、速水を引き摺り
下ろす。

停電を繰り返すおんぼろ長屋の宿舎で、
速水はお粗末な食事を供される。背後で
は退団する二人が黙々と荷造りしている。

そこえ井田が新たな団員を二人連れ込む
が、彼らに供する米づぶにも事欠く始末。
速水は夕食後、練習するためにカフェの
2階に行く。思いがけず素晴らしいピアノの
調べが聴こえてきた。

楽団唯一の女性、かの子はカフェ3階の
屋根裏暮らし、食器棚はみかん箱だ。

階下で練習を始めた速水のヴァイオリンの
音色に、かの子はその音楽性の高さを感
じる。

二人がお互いに認めあるシーンだ。
一宿一飯のせいか、速水は楽団の指揮を
始めた。一流の演奏家である速水にとって、
素人に毛が生えたようなアマチュアのレベ
ルには、激しい言葉も飛び出す。

そんな速水の厳しい指導に、内紛を始める
団員や、仕事で道中退席する団員も居て、
速水は練習を投げ出し、前途を憂う。
ある日の移動音楽教室、学校の校庭では
出店が並び、会場には敬老席があったり、
重箱で飲食をする人々で混乱状態。

司会者が楽団を紹介するが、「市民フィル
ハーモニカ」というが、井田が困惑して立ち
上がり「市民フィルハーモニー」と情けない
顔つきで訂正する始末。

終戦直後とあってまだまだ、一般庶民へは
クラシックを理解させるのは困難そうだ。
また、ある日の移動音楽教室、ここでも会
場で寝そべる老人、重箱で飲食する人々、
子供は音楽そっちのけでゲームに興じた
りしている。

そんな会場の中でも熱心に演奏に聴き入る
少年少女も居た。校門を出るかの子に、先
ほど熱心に聴き入っていた少女から、野の
花をプレゼントされた。

嬉しさのあまりかの子はワルツを歌いなが
ら駆け出す。
ある日の午後、練習場の掃除の途中、ピア
ノを弾くかの子。そこへ速水が練習にきた。
二人は初めて親しく話をする。二人はお互
の身の上や経歴を話し、認め合う。

階下のカフェに来客があった。東京のオケ
のマネージャで、速水に東京へ来いと誘う。
そこへ井田が来合わせ、来客の顔を思い
出す。山田(耕筰)先生のところであったとい
い、まもなく定期演奏会をするが、合同演奏
を申し入れる。
今度の移動音楽教室は鉱山だ。昼食のた
め山間で弁当を使う団員たち。そこへ炭焼
きの人々が集まり始めた。

かの子が林の中に入っていく。それを見た
速水が後を追う。林の中で速水は東京に行
かないとつげ、かの子に求愛をする。

その頃、炭焼きの人々を前に、臨時の野外
演奏がはじまった。食い入るように聴き入る
人々、団員たちはこれまで以上に音楽を拡
げていく決意を新たにする。
1年後、ついに念願の定期演奏会が実現、
しかも東京管弦楽団との合同演奏会だ。
正装した井田がこれまで苦楽をともにした、
元団員たちを労う。

山田耕筰の指揮でチャイコフスキーのピア
ノ協奏曲を弾く室井摩耶子の演奏を、幕間
からかの子が食い入るように聴いている。

演奏会が終わりタクシーを連ねて駅に向か
東京勢に対し、実力差を嘆きながらトボトボ
と宿舎に帰る団員たち。
定期演奏会という1つの節目を終えた楽団
は、元警察署長の会計を迎えて給料を支
給する。かの子と所帯を持った速水は、前
借りのため給料が出ない。

井田は速水に子供にバイオリンを教えるこ
とを薦める。既に練習場の片隅には母親
同伴の子供が待っていた。

速水は渋々試しに弾かせてみが、その拙
い演奏に手を挙げて止めたのであった。
その後も市民フィルは移動音楽教室を、県
下隅々まで脚を延ばし音楽を拡めていく。

そんなある日、大雪の山中にあるハンセン
療養所を訪れた。一生に一度しか聴く機会
がない、生の演奏を「生きていき喜び、一生
消えることがない想い出」と、延々と続く音の
ない拍手。

その最中、高崎ではかの子が、元団員の産
婦人科で、生死をかけた難産と戦っていた。
その後も楽団の経営は一向に改善せず、団
員の給料支払いに窮することも日常であっ
た。

速水は子供たちにバイオリンを教え、少ない
収入を補い、また、軍楽隊上がりの団員は屈
辱的なチンドン屋のアルバイトをして糊口を
凌いでいた。
栄養失調のため鳥目になったかの子が、
暗い練習場へ行き手探りでピアノがあった
場所を探すが、あるはずの場所にない。

かの子は元団員のパーマ屋から、団員がチ
ンドン屋までしてがんばっていると、米の喜
捨を受け宿舎に戻ると、皆が暗い顔をして車
座になっている。練習場もピアノも楽器も失っ
て、楽団が解散になったことを知る。

速水は解散で散りじりになる前に、最後の移
動音楽教室をしようと提案する。
解散を前に山奥の小学校へ向かう。誰もが
失意と栄養失調で疲れ果て、トボトボと山道
を歩いている。途中で便乗した三輪トラックの
荷台、驟雨に会い楽器とかの子親子を、シー
トで覆い、雨に濡れながら支える団員。

学校へは山奥の分校から子供達が駆けてき
た。雨に濡れた楽器ケースや靴を、囲炉裏端
で乾かす側に速水とかの子の赤ん坊が寝て
いる。講堂からは速水の奏でる子守唄が切々
と聴こえてくる。
講堂からはみ出さんばかりに集まった子供た
ち、その真剣な子供たちに井田が楽器紹介
をする。

バイオリン、ビオラ、チェロ。コントラバスの
愉快な演奏に子供たちの笑顔がはじける。
ホルン、そしてトランペットの民謡に歓声が。

そして、かの子が弾くピアノのさくらを、うっとり
と聴き惚れる子供たち。
一生一度しか聴くことがないだろうという子供
たちの真剣な眼差しを前に、速水たちもこれ
が最後と一生懸命に演奏をして応える。

楽団には速水が教えたバイオリン教室の、成
長した若者も加わっている。

会場割れんばかりの大拍手を受け、挨拶に立
った井田は「私たちは遥々山を越えてやって
きましたが、今日ほど、今日ほど大勢の皆さん
の美しい心に触れた喜びはありません
」。
「最後に皆がよく知っている赤とんぼを、一緒
に歌いましょう」。

帰路につく団員たちに山の向こう側から、分
校に帰る子供たちの歌う赤とんぼが聴こえて
きた。

さようなら、さようならと手を振り合い、そして
再び赤とんぼを歌いながら山奥の分校へ帰っ
ていく子供たち。

数年後、電気機関車が牽く列車が高崎に差
し掛かった。そこには山田耕筰とマネージャ
が乗ってい、市民フィルは解散したと聞いた
が、ひょっとしてまだやっているかもしれない
と、途中下車した。

訪ね当てた長屋の一室から美しいピアノと管
弦楽の調べが流れ出ている。古参たちに混じ
って若い団員が大勢いるではないか。

その演奏に聴き入っていた耕筰は、思わず
指揮を執り始めたのであった。

彼らの演奏の感動した耕筰とマネージャは、
寝込んでいた井田に合同演奏を持ちかける。

遂に東京の管弦楽団と対等の立場での、合
同演奏会が開催された。

ベートーベンの合唱交響曲が流れる会場で、
かって創生期に苦楽を共にした仲間たちが、
想いおもいに苦労をした昔の想い出を、脳裏
に蘇らせていた。

そして、また大きなピークを迎えた楽団は、
次の頂を目指して登り始めるのであった。
(お断り)各シーンは2〜6分くらいに分割しまし
た。これらの20シーンは演奏シーンを中心に
編集いましたが、ストーリーの展開に必要な
ドラマシーンも含まれています。
全編をご覧になりたい方は、DVDをご購入
ください。
ここに泉ありと群馬交響楽団のことは、

  財団法人 群馬交響楽団
  ここに泉あり〜群馬交響楽団
  高崎市民オーケストラと「ここに泉あり」

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